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[刑法]要注意の規範!③

さて、長かったシリーズも最後になりました。
(と言ってもこれ書いてるのは一緒の時(現在10月28日午前1時ェ…)なのですけどw)

例によって設問の確認から。

 甲は,近隣に住むAが外出するのを確認した上,金品窃取の目的で,平成24年10月1日午前9時ころ,A方の無施錠の勝手口からA方に侵入した上,勝手口の南側にある4畳半和室に入り,4畳半和室内にあったA所有に係る現金約6万9700円及び財布等12点在中の手提げバッグ1個(時価合計約5万6100円相当)を手に取った。
 甲が,その後,直ちに4畳半和室を退出しようと勝手口に向かったところ,甲の背後の4畳半和室の西側に隣接する8畳和室から「ガサッ」という音が聞こえたが,甲は,振り返ることなく勝手口から逃走した。その際,両和室の間にある襖は開いており,甲は,これに気付いていた。
 甲は,A方を出ると,そのままA方の東側に隣接する自宅に戻ったが,自宅内で5分ほど過ごした後,「もしかしたらAに見られたかもしれない」と思い、再びA方に赴いた上,4畳半和室を通って8畳和室に入り,8畳和室南西側角付近に南側を向いて座っていた被害者を発見するや,その背後から被害者に近づき殺害した。
 以上における甲の罪責について論ぜよ。





今回は刑法・事後強盗罪の「窃盗の機会」についてです。
この論点については、通例、以下のような論証がなされます。

事後強盗罪も強盗として処理される以上、強盗として重罰を課すに足りるだけの窃盗行為との時間的・場所的接着性が必要であり、窃盗の現場又は窃盗の機会の継続中に行われたことを要する。



はい、要するに、「窃盗の機会」についてなされることが必要、という論証ですね。
ここまではみんな書きます。

そうすると今度は、前の「強盗致死傷罪における強盗の機会」に関する記事同様、この「窃盗の機会」はどのように認定するのか、という問題にぶちあたります。ただ、この問いについては前回の問題と異なり、明確にこの判断の方法を述べた最高裁判例がありますから、特に苦なく当てはめができそうです。
以下は最判平成16年12月10日の判決文です。

上記事実[注―誰からも発見、追跡されることなく自転車で約1km離れた公園に行き、その約30分後に当初の窃盗の目的を達成するため同じ家に引き返した。]によれば、被告人は誰からも発見、追跡されることなく、いったん犯行現場を離れ、ある程度の時間を過ごしており、この間に、被告人が被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕されうる状況はなくなったものというべきである。そうすると、被告人が、その後に、再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても、その際に行われた上記脅迫が、窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない。



要するに、上位規範が「窃盗の機会の継続中に行われた」か否か、その判断をするための具体的な下位規範が「被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕されうる状況」があるか否か、ですね。
ここでは「機会」という本来の文理的意味からは大きく離れて「時間的場所的接着性」という要素が全く重視されていないことが分かると思います。

この観点からすると、設問の事例ではどうなるでしょうか。犯行後5分強・犯行現場そのもの、における殺人なわけですが、それでも「機会」性は否定されるのでしょうか。

ほぼ同様の事案について下級審裁判例があります。東京高判平成17年8月16日です。

被告人は、手提げバッグを窃取した後、誰からも追跡されずに自宅に戻ったのであり、その間警察へ通報されて警察官が出動するといった事態もなく、のみならず、盗品を自宅内に置いた上で被害者が在宅するA方に赴いたことも明らかである。そうしてみると、被告人は、被害者側の支配領域から完全に離脱したというべきであるから、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況がなくなったと認めるのが相当である。本件殺害は、窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない。原判決は時間的接着性のほか被告人方がA方と隣接していることをもって場所的接着性があるというが、たとえ時間的かつ距離的に近接していても追跡されないまま自宅という独立したいわば被告人自身の安全圏に脱した以上、時間的場所的接着性は本件における窃盗の機会継続に関する認定を左右するものではないというべきである。



要するに、「時間的場所的接着性」なんて、一回逃げ切ってしまえば全く考慮されていないに等しいんですね。この判決は上記の平成16年最判に非常に忠実に「機会」性を否定した判決と言えるでしょう。




以上、3回にわたって、「規範」と「当てはめ」がずれる論点を紹介してみました。
決してレベルの高いことをネタにしたわけではないので、「んなもん当たり前だろ」という部分も多かったと思いますが、学部生の方も見ていただけているようなので、そういう方には少し参考になる・・・かな?


今日はこの辺で。

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いつも更新楽しみにしてます。一つ疑問点があります。判例理論の内在的理解を答案に示そうとするとどうしても典型的規範とあてはめのズレが生じて悩んでます。この場合、そもそも規範を修正すべきなのでしょうか例えば上位規範をあげた上でそれを判断する要素としてのこれらの下位規範があるといったような。それともあくまで規範は典型的論証そのままに、あてはめの部分で判例を意識して事実を拾えばよいのでしょうか。

Re: タイトルなし

>ゆきひろさん

コメントへの返信が遅れてすみません・・・。このごろ少し忙しくて遅れてしましました。


さて、コメント内容にある疑問点についてですが、僕は
>「そもそも規範を修正すべきなのでしょうか例えば上位規範をあげた上でそれを判断する要素としてのこれらの下位規範があるといったような。」
この方法が一番分かりやすいのではないかな、と思います。実際、僕はロ―内学期末試験等ではこの手法で答案を書いています。

特に、僕は判例の分析は「上位規範」とその具体的判断を可能にする「下位規範」の二つで分析することが有用であると思っていますので、答案上では「当てはめ」部分に入る前にこの両規範を明示的に打ち出すことにしています。

例えば、今回の論点で言えば、「上位規範」は「窃盗の機会」か否か、「下位規範」は「被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕されうる状況」が残存しているか否か、ですので、
「…窃盗の機会になされたものであることが必要である。そして、この窃盗の機会か否かは被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕されうる状況が残存しているか否かという観点から判断すべきである」とまで規範部分で書いてしまうことになります。

前回の一部請求(民訴)の例でいえば、「…明示したか否かによって判断すべきである。もっとも、ここにいう「明示」とは、前訴による紛争解決についての被告の信頼の有無、原告が前訴において請求することの期待可能性の有無、明示の難易・被告の紛争が解決したとの合理的期待の有無等の諸事情も総合的に考慮して判断すべきである。」という規範を定立することになります。

もっとも、時間との関係上、「下位規範」まで答案に表わすことができないことは多々ありますので、その場合については規範部分では上位規範のみ定立して、当てはめは下位規範に従って行い、結論部分で下位規範を充足することを指摘しつつ上位規範適合性を確認する、という手法を使うこともあります。

具体的に今回の記事の例でいうと、「窃盗の機会になされたか否かで判断すべきである。本件においては・・・(当てはめ)・・・。したがって、本件暴行は、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕されうる状況における暴行といえ、それゆえに窃盗の機会になされたものと言えるから、甲には事後強盗罪が成立する。」等となります。


要は採点者にとって上位規範の具体的意味内容を理解していることが伝わればいいわけですから、あまり決まりきった表現・書き方というものもないような気はしますが、もし僕の例が参考になれば幸いです。

すっきりしました!大変参考になります。理解を答案に表せれるよう精進します。ありがとうございます。